タスポをマーケティングから分析する
タバコのマーケティングはケーススタディとして、大変参考になる。ビジネスモデルに根本的な矛盾があり、しかし、それをねじ伏せる予算と蓄積されたノウハウがある。その攻防は、実に「おもしろい」。
タバコビジネスのカギは「未成年の内に、喫煙体験をいかにさせるか」にある。酒と違って、成人を記念して喫煙を勧められることはないし、また大人の証として吸い始める人はまずいないだろう。
タバコを吸い始めるのは、子供が背伸びして試してみるのがきっかけで、喫煙経験のない大人をタバコ消費者の取り込むことは非常に困難である。
もちろん、未成年者の喫煙は違法である。しかし、法をかいくぐって、未成年者にタバコを吸わせないと、産業は成り立たない。ただし、タバコには強い習慣性(中毒性)があるから、一度、喫煙習慣を植え付ければ、長期間の消費が約束される。
この矛盾と、それを乗り越えたときの「おいしさ」が、タバコ産業のマーケティングにはある。だから、戦略を組み、膨大な予算をかけて、慎重かつ巧緻に戦術を動かす。
タスポの導入に当たっては、カードの申請が面倒であり、自販機にその認識装置を付加するコストがかさむこと、その負担や運用の面倒から小規模小売店が売上を落とすことになり、廃業に追い込まれる話が先行した。
タスポは禁煙運動の高まりと、日本のお役所の管理好き(利権であり、天下り先でもある)により成立した奇妙な規格で、タバコ産業にとってはマイナスと思われた。また、そう思うように世論をリードした。
確かに、タスポが厳密に運用されるなら、タスポを持っていない人は自販機でタバコを買うことができない。未成年者はタスポを持つことはできないから、「未成年の内に、喫煙体験をいかにさせるか」が要諦であるタバコビジネスにとって、厳しい関門となる。実際に、タスポが導入された地域で、自販機でタバコが買えなくなった未成年が、コンビニにタバコを求めて強盗に入るような事件も起きているわけだし。
タバコビジネスにとって一大事かと思われていたが、ここでタバコ会社は念願の一手を打つ。自販機による深夜販売の再開である。自販機によるタバコの深夜販売の自粛は、未成年者がタバコを手にする機会に制約を加えるために、「導入させられた」自制策である。
タスポが導入されれば、未成年対策はそちらで済んでいるので、不本意な自粛を撤回する大義名分が立つ。
その一方で、タスポは骨抜きにする。店先にぶら下げて、誰でも利用できるように「サービス」するところが出ているし、タスポカードを貸与することは禁止されているが、罰則はない。福岡県警が注意したようだが、「本来」なら、タバコ産業が率先して、こうした違法行為をする店には指導しなければならないし、タスポの安定導入を真剣に考えるなら、供給を止めて、こうした店を排除することも検討しなければならない。
もちろん、「未成年の内に、喫煙体験をいかにさせるか」に腐心しているタバコ産業はそんなことはしない。
廃業に追い込まれるのは、売上を落とした店の「自己責任」である。タバコ産業に限らず、メーカーが些末な店舗の面倒を見る時代ではない。であれば、小売店は生き残りをかけて必死なのである。店頭でタスポの貸し出しを実施するところが出ても不思議はない。
タバコ産業は、タスポを骨抜きにしたいと言う本音を隠しながら、タスポ導入に全力というポーズを取る。汚れ役は店舗に押しつけられている。汚れ役に批判が集まらないように、むしろ同情が集まるように、「売上激減」「廃業の危機」というニュースリリースによる援護は欠かさないが。
タスポという「カード」を使ったマーケットの再編は、タバコ産業が一本取った。どこまで予定通りのシナリオであったかは知らないが、「未成年の内に、喫煙体験をいかにさせるか」に重要な自販機の深夜販売の復活に成功し、代わりの成約であるタスポを骨抜きにした。合わせて、不採算店舗の整理を、非難どころか同情を集めながら、実現したのだから。
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マーケティングの観点からタバコ産業を分析し、その精緻な構造を解説すると共に、そのシステムを利用して返し技をかける方法について書きました。
![]() | CM化するニッポン―なぜテレビが面白くなくなったのか
著者:谷村 智康 |
コンビニを使った未成年向けタバコプロモーションについて書いた
| マーケティング・リテラシー―知的消費の技法
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コメント
谷村さんこんにちは。
ひっそりと書いているところを書名でググったら(宣伝されなかった!)見つけてしまいました.
本の中では,タスポについては論じられていなかったので違和感を感じていましたが,こちらで書かれましたか.
タスポを導入することで深夜の自販機解禁を狙っているのは薄々とは感づいていましたが,ぼくはそれ以外にもコンビニとの蜜月関係をより深める狙いがあるのだと思っていました.小売店が潰して,タバコ販売の許認可を未成年が対面であろうとも買いやすいコンビニに移すことによって,売り上げを確保するという.
推測の域を出ませんが…
投稿: matsukazuto | 2008年6月25日 (水) 04時18分
書き込みありがとうございます。
ビールメーカーが街の酒屋を見捨てたように、また、スナックメーカーが駄菓子屋と縁を切ったように、交通が発達した現代においては、コスト削減のため泡沫店舗を切り捨て、別の現代的店舗に注力するのは、当然の「選択と集中」です。
「タバコは儲からない」とのコンビニからのコメントを、ニュースなどで見ますが、それはコンビニでタバコを重点的に売るための下地作りではないでしょうか?
やはり、推測の域を出ませんが…
タバコ産業は、本当のことを言いませんから。
だから、ケーススタディとしておもしろいのですが。
投稿: 谷村智康 | 2008年6月25日 (水) 07時16分
楽しく禁煙ブログを開設している "禁煙センセイ" こと haruyuki と申します。
タバコとCMについて、「CM化するニッポン―なぜテレビが面白くなくなったのか」 を参考に書かせていただきました。
宜しければ見に入らして下さい。 http://smoke-free.cocolog-nifty.com/blog/2009/08/cm-f12a.html
投稿: 楽しく禁煙 | 2009年8月 8日 (土) 00時44分
haruyuki さん
サイトを拝見いたしました。
大変分かりやすく、勉強になりました。
タバコ産業は、未成年者にいかに喫煙させるかを試作してますので、ぜひ、中高生に見て欲しいなあと思います。
投稿: 谷村智康 | 2009年8月 8日 (土) 18時21分