「広告売り上げが減っている」という悲鳴のような話は、テレビや新聞やラジオのような既存のマスメディアからいくらでも聞くことができる。これは日本に限ったことではなく、「米新聞社の広告売上,今年は過去最悪の下落率か」(メディア・パブ2008年6月15日)と言うように、海外(少なくとも先進国)においては、同様の傾向である。
イギリスでも似たような傾向らしい(小林恭子の英国メディア・ウオッチ 2008年 06月 10日)。来年にはテレビ広告を抜き、2010年には新聞と雑誌を合わせた(イギリスではそうカテゴライズするようです)出版広告を抜くと予想されているそうだ。
つまり、「ネット広告が増えているってことでしょ。」と捉えがちである。
日本では電通統計によれば、総額7兆円の広告市場において、ネット広告の売り上げは6000億円で、雑誌を昨年抜き去り、テレビと新聞に次いだ3位であるように。
この既存のマスメディアからネットに広告予算が推移するという大勢に同意しつつも、少しばかり異を唱えると、私は「ネット・マーケティングの売り上げは、もうとっくに、テレビや出版広告を抜き去っている」と私は考えています。
電通統計のインターネット広告費は6,003億円で、内訳は「媒体費が4,591億円」「広告制作費1,412億円」なのだけれど、これはすごく狭い定義に基づいた数字です。
この電通が計上しているインターネット広告に、アマゾンのアフィリエイトはもちろん、アマゾン内のお勧め商品の掲示のようなものは含まれていません。楽天やヨドバシドットコムも同様。これらのショップ内の「広告」は勘定に入っていません。
こうしたショッピングサイトの掲載順位はお金で買えるので、クライアントから見れば「広告」なわけです。もちろん、こうした「メディア」への掲載料はたかがしれていますが、塵も積もれば山となるわけで、合計すれば結構な金額になるでしょう。
ただし、これだけではまだ、2兆円のテレビ広告費をしのぐところまでは行かないでしょう。
しかしこれに、還元ポイントと人件費を乗せると、おそらく逆転しているのではないかと思います(正確な統計はないので、立証も断言もできないのですが)。
家電量販店で働いている人が、メーカーからの出向であったり、派遣だったりと、直接間接を問わず、メーカーが負担しています。その原資、特に前者である還元ポイントは、広告費(名称は別だったりしますが)から捻出されています。
「自社製品が売れる仕組みを作る」というマーケティングの原理から言って、そこに金をつぎ込むのは当然です。メディアの広告に凝っても「きれいな広告表現をありがとう。見ていて楽しかったよ」「だけど、買うとなると、全然別の話さ」と言う辺りが消費者の心情でしょうから、そんなぬるいところに予算を割くよりは、売り上げに効くところに実弾を放り込むでしょう。
後者である人件費にしても、リアルショップの店員がメーカーの人間であるのなら、ネットショップの裏側にもメーカーからの派遣がいると考えるのが妥当でしょう。そういうところまで含めて、メーカーの広告費です。「自分のところの商品こそを買ってもらうための予算」という意味で。
正確な統計があるわけではない(先の電通統計は、「メディア」あるいは「大手広告代理店」が絡んだ金の話限定)から、断言はできませんが、メーカーの広告予算は減っていません。ただ、メディアに使わなくなっただけです。
「そんなポイント還元とか人材派遣の費用は、広告の概念に含まれないよ」と広告代理店やマスメディアの人は言いたいでしょう。
反論は二つあります。
1.「広く告げる」広告を商売にしているメディア自体が、番組や記事と連動した通販を実施しているわけで、広告が単純な認知や関心を取り扱うビジネスではなくなっていることを、自身がよく知っているはず。
2.「自分のところの商品こそを買ってもらう」ことこそが、広告の使命。かつてはメディアの広告にその決定力が圧倒的にあったから、「マーケティング≒広告」という状態が成り立ったのだが、今では消費を決定する装置としての玉座は、(狭義の)広告ではない。消費を決定する装置(マーケティング)として、長い間、広告の独壇場が続いたので、つい同一視してしまいがちだけれど、本来は全く別のものであり、ポイント還元や店頭への人材派遣を広告と認めないのは、狭義の定義としては正しいが、「売りを決める」という本義を忘れた広告屋の視野狭窄か自己弁護に過ぎないのです。
「広告費は本当に減っているのか?」と言うタイトルに戻ると、クライアントのマーケティング(自分のところの商品やサービスを売るためのしくみ)予算は減ってない。
ただ、効果が薄れているから、メディアに費やされる予算は減り、「広告費が減っている」と業界で言われるような状況になっているだけだと思います。
*日本の広告の現状については、電通の統計以外には、「正確な統計がない」のです。
本文中にも、二回、「正確な統計がない」という表現が出てきますが、「クライアントが使っている総額」「販促まで含めた金額」は、本当のところ、良く分からないのです。
【以下、広告です】
広告が「消費を決定する力」を失う中で、世の中はどう変わり、また「私たち」はどうしていけばいいのか?
『マーケティング・リテラシー ~知的消費の技法』(リベルタ出版)をご覧ください。
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